Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “晩秋睦夜閨蜜戯”
 


 秋の錦も佳境に入り、別名“菊の節句”重陽の節句を過ぎると、この日を境に綿入れを着るのが習わしで。秋の豊かな実りに欣喜した人々は、冬支度を意識し始める。今年は随分長々と、いい日和続きの秋だったが、それでもさすがにこうまで深まると、風の冷たさに身が縮こまり。夕景の物悲しさを眺めていると、何とはなく人恋しくなって来て。誰ぞと共にありたいなと、暖かいものに触れての人心地つきたいなと、しみじみと寂寥の想いが深まる、そんな頃合い。




  ◇  ◇  ◇



 甘い栗色の髪の間から、毛並みも柔らかいふわふかなお耳がぴょこりと立った。小さな小さな仔ギツネ坊やをそのお膝に抱いての、うにうに転がるにまかせて遊ばせていたものの。粟餅みたいにどこまでも柔らかい顎先や頬や、こんな小さな爪まで必要かと溜息が出るほど愛らしい、紅葉のようなお手々を、ちょいちょいとつついても。擽ったいからというむずがりの“や〜の”という反応が薄くなって来て。それへと気づいた書生の少年が、お膝を進めてくるのへと、
「…まだちーと惜しいのだがの。」
 ご本人がおネムでは仕方がないかと苦笑をし、袴履きのお膝を温めてくれていた、幼子のほんわりとやわらかな温みをそろりと抱え、起こさぬようにそぉっとそぉっと、間際に寄った瀬那の小さな双腕へとお引っ越しさせて。
「足元や腹を冷やすなよ?」
 これもまた掠れるほどもの小さな声での囁けば。はいと頷くこちらもまだまだ幼いお顔が、
「それでは、おやすみなさいませ。」
 師匠である蛭魔とそれから、その連れ合いの黒の侍従殿へと向けて、丁寧にご挨拶をし、自分の寝所へと下がってゆく。まだ素足のままな足元が、板張りの上をひたひた行くのが、いかにも寒々しく見えたものの、
『何の。進の野郎が防寒のための咒をさりげなく張っておる。』
 それは霊力の強い守護に護られている御子なので、我らが下手な案じをかけてやっても、却って恐縮させるだけぞと言っていたお師様の方は。彼もまた寒さに弱いくせ、式神殿がそれへの対処術を唱えようものならば、
『余計なことをしてんじゃねぇっ!』
と、口より先に蹴りが飛んでくるのが相変わらず。まあ確かに、一昨年の冬だったかにご披露したような、自分が引っ繰り返る恐れがあるような温熱の咒なぞを軽々しくも唱えるようなお人なので…そら叱られるわ、あんた。
(苦笑)
「…。」
 御簾越しに庭へと望む、廻り回廊から続く濡れ縁がその片辺に長々と連なる大広間。さすがにこの時期は、日暮れに合わせて妻戸や大戸を半分以上立て込めてしまうようにもなった。あばら家屋敷でも一応の手入れはなされた床の板張りが、高脚の燈台に灯された明かりをつやの中に映しての、ほわりと暖かい色合いに滲ませていて。本来の形式からは外れるそれだが、そんなこと知ったこっちゃねぇと主人が床に開けさせた囲炉裏には、早々との炭の火が明々と熾
こされており、傍らに寄っていた御主の色白な頬を暖かな色合いに染めている。まださして厚着に着膨れていない彼なのは、今宵の冷えがまだまださほどの底冷えとまでは至っていないのとそれから、
「ほれ。」
「おお。」
 炭火の上、五徳に掛けてあった鋳鍋に、湯煎という格好でひたされていた銅壷を引き上げて。片口になっている注ぎ口から蛭魔が手にしていた平らかな杯へと、熱燗にした澄酒をそそいでやる葉柱であり。
「…うん、腹に利く。」
 これからの季節には熱いのだなと言うのへと、猫舌なくせにどの口が言うかねと葉柱が苦笑を見せたけれど。こんな小さくて平らな杯へとそそいでしまえば、その端からすぐにも冷めてしまおうし。さすがに一気にくいとは明けられず、杯の縁に、桧扇でも構えるよう、その指先をきれいに添えられた陰陽師殿の手元を眺めるのは好きなので。つまらぬ茶々を入れるのはよして、そうかそうかと受け流しておれば、
「………。」
 切れ長の目許に据わった金茶の瞳がちらと泳いで。何か聞こえでもしたかと小首をかしげた侍従殿との間合い、すこし温
ぬるんだ板張りの上、その白い手のひらが伏せ置かれる。
「? 蛭魔?」
 その手へ重心を移しての、身を乗り出して来た彼であり。何か耳打ちかと思ったのも束の間のこと、お膝を進めてのにじり寄って来た御主、床から持ち上げた手を、今度は葉柱の膝へと突いての、ぐんとその身を乗り上げて来、
「返杯 利かねぇんじゃ詰まんねぇんだよ。」
「…お前ね。」
 するんとなめらかな頬が…少々火照って見えるのは、果たして酒のせいだけか。澄酒は強すぎて飲めぬ葉柱への駄々をこねつつ、そのままぱふりと、気に入りの懐ろへ。乗り上げさせた痩躯を、凭れさせての埋もれさせる御主であったりし。袷
あわせの胸元、少しほど覗いていた肌に触れたことで、
“おや…。”
 火照って見えた頬が、案外と冷たいことに気がついて。おやおやと眉を寄せた葉柱が、長くて強靭な腕を延べると、その双腕にてくるり包み込むようにして、大事な御主を抱き寄せる。体格のいい葉柱の膝の上、懐ろの中、収まりのいいところへと落ち着いた途端、蛭魔の口許からほうと零れた吐息の擽ったさが、衿の合わせから衣紋の中へと吹き込まれて…切なくて。
「案外と薄着なんじゃね?」
 もさもさと着るのがうざったいとか言ってんじゃねぇぞ? 風邪でも拾ったらどうすんだと。窘めにしては柔らかな語調で囁けば。
「…。」
 しばしの沈黙の後、ぽつりとした呟きが聞こえた。

  ―― だったら、そうならねぇようにすりゃあいいだろ?

 顔も上げぬままの御主の、金の髪を懐ろに見下ろせば。その淡い色合いが薄闇へと掠れて没する縁あたり、少し尖った白い耳の先が桜色に染まってて。
「…っ。///////」
 逃げ出されちゃカッコがつかねぇ。先に…自分で自分の肘を掴んでの、腕の環をがつりと固めてから、

 「いんだな?」
 「〜〜〜。//////」

 耳元で改めて訊いたところ、結構分厚い袷も貫けとばかり、尖った爪立てて胸倉掴まれた蜥蜴の総帥様だったとか。


  ―― ぅんな恥ずいこと、何度も言わせんじゃねぇっ!////////
      ………はい。




   お後がよろしいようで。
(苦笑)




 〜Fine〜 07.11.14.


  *ずっと くうちゃん中心の風景でしたので、
   ここいらで久々にしっぽりとvv

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